プレスリリース

2016.3.18 「世界初、ポジトロニウム負イオンの共鳴状態の観測に成功」
       (東京理科大学、理化学研究所、高エネルギー加速器研究機構)
 
東京理科大学、理化学研究所、および高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の研究チームは、陽電子1個と電子2個が束縛し合っているポジトロニウム負イオンの共鳴状態を生成し、その分光を行うことに成功しました。誰も容易に実現できるとは考えていなかった、ポジトロニウム負イオンの共鳴状態の生成と観測が可能になりました。
 最も単純な三体系であるポジトロニウム負イオンの分光実験が可能になったことで、三体量子系の研究の発展が期待されると同時に、寿命が長い励起状態のポジトロニウムビームの生成への道が開けました。
Nature Communications, 7, 11060 (2016)

2014.5.28 「二酸化チタン表面における陽電子消滅誘起イオン脱離の観測に成功」
       (東京理科大学立教大学)
 
東京理科大学、立教大学の研究グループ(代表、東京理科大学 長嶋泰之教授)は、数10 eV、あるいはそれより低いエネルギーの陽電子を二酸化チタン表面に入射すると、表面上から酸素の正イオン(O^{+})が脱離する現象を発見しました。この結果は、陽電子が固体表面原子の内殻電子と対消滅して内殻に空孔が生じ、これが緩和するときに不安定な電荷分布が一時的にできるために、酸素原子が周辺の原子との結合を切断して正イオンとなって放出することを表しています。固体に侵入した陽電子は特定の原子種周辺に集まるという特徴があるため、この現象を利用すれば、固体表面に存在する原子種を選択的に取り除くことが可能になります。さらに、全くエネルギーを持たない陽電子であっても内殻電子と対消滅することが可能です。このため、固体内部に侵入しないような十分低いエネルギーで陽電子を入射することにより、固体内部を損傷することなく試料最表面を構成している原子のみをイオンとして脱離させることができます。この手法は、固体最表面の改質に道を拓くことになります。
Physical Review B, 89, 201409 (2014)

2012.6.20 「本格的なポジトロニウムビームの生成に成功」
       (東京理科大学高エネルギー加速器研究機構)
 東京理科大学、高エネルギー加速器研究機構の研究グループ(代表、東京理科大学 長嶋泰之教授)は、電子1個と陽電子1個が束縛し合っているポジトロニウムを、エネルギーの揃ったビームとして超高真空中で生成することに成功しました。通常、電荷をもたないポジトロニウムは電場による加速ができませんが、今回、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所のパルス状陽電子ビームを用いて生成したビームは、1keV を超えるエネルギーにまで自由に加速することが可能です。 電荷が無いポジトロニウムビームは、絶縁体の分析に適しています。本ビームは、超高真空が不可欠な絶縁体表面の分析に用いることもでき、 1keV 以上に加速すれば短い寿命の間に 1m 以上の輸送が可能となり、絶縁体表面にすれすれの角度で入射して回折実験に利用するなど、研究手法としての展開が期待されます。さらに、いまだ謎の多いポジトロニウム自身の性質解明が可能となります。
Applied Physics Letters, 100, 254102 (2012)

2011.4.7 「世界初、ポジトロニウム負イオンの光脱離に成功」
      (東京理科大学高エネルギー加速器研究機構)

 東京理科大学 長嶋泰之教授が代表を務める、東京理科大学、高エネルギー加速器研究機構、宮崎大学、東京大学の研究グループは、陽電子1個と電子2個が束縛し合っているポジトロニウム負イオンにレーザーを照射し、電子と陽電子が束縛しあったままの状態であるポジトロニウムと電子1個に分離することに、世界で初めて成功しました。この手法を利用すれば、任意のエネルギーをもつエネルギー可変ポジトロニウムビームを超高真空中で生成することが可能になります。ポジトロニウムビームを使えば、電荷が無い特徴を生かして絶縁体表面の分析やポジトロニウム自身の性質の解明への道が拓けます。
Physical Review Letters, 106, 153401 (2011)